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kato-kichi sketch 

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風呂セレブ

一昨日、今一番熱気があるグループと言われるYGNのワークショップへ行ってきた。

俺はグループのメンバーではないが、お誘いしていただいたので。
YGNについて詳しくはこちらで


その会場で久しぶりに再興園の篠原さんにお会いした。
篠原さんは俺が農場立ち上げ時期からずっとお世話になっている方だ。

栽培について教えて頂いたのはもちろん
長野周辺の生産者さん達も、みんな篠原さんに紹介して頂いた。
今は息子さんも農場に入られて一緒に生産をしている。(会場には息子さんもいた)


篠原さんとは12年前、俺がまだ第一園芸研修時代に初めてお会いした。


俺はまだ切花にするか鉢花にするか迷っていた時期で
その事を第一の社員さんに話すと鉢花の再興園さんへ見学に連れていってくれたのだ。

一日中、長野の切花農家さんで試作苗の植え込みをしてから夕方、篠原さんを訪ねた。

篠原さんは日が暮れるまで色々と栽培について話してくれたのを覚えている。




それから2年程して俺は独立した。

最初の3〜4年は本当に苦難の連続だった。

何しろ全てが初めての事だからだ。

栽培の流れも目指すべき最終型もよく分からず良いものは作れなかった。

栽培の本を何十冊読んでその通りに仕事しても全くダメ。
アレがないコレがない。何が良いのか悪いのか分からない。
1000鉢2000鉢作るのとはわけが違う。
病気や虫で植物がダメになる。
虫と病気を気にするあまり薬害でダメになる。
台風で植え付け直後の路地苗10万鉢が水没。
ハウスの工期が遅れ植えつけできず苗が全滅。
早霜で植物が凍る。
長雨で植物が腐る。
真夏にポンプが壊れ水が出ないくなる。
暖房機が止まって花が凍る。
作ったばかりのビニールハウスが風で飛んでいく。
作ったばかりのハウスが雪で潰れる。
作ったばかりのベンチが潰れる。
天窓が飛んでく。
遮光カーテンが開かない。
花が咲かない。etc
考えうる失敗のほとんどを経験。

比喩でなく365日、毎日休まず朝から晩まで仕事。仕事。
パートさんもまだ雇えなくて、親戚何人もに無償で手伝ってもらう。
仕事が終わると2階に行く気力もなくコタツで毎日寝てしまう。
汗だらけの体でも疲れ果て4〜5日風呂に入れない事もザラ。

俺でだけでなく
会社時代は必ず毎日朝風呂に入ってピシッとしていた両親まで
そんな生活になってしまった時にはさすがに

「エラいこと始めちゃったな」

と胸が痛くなる事もあった。
(2日連続で風呂にはいると「セレブだなあ〜」なんて言い合って笑っていたけど。)



周りの反応もかなり冷ややかだった。

地元の新規就農者の失敗が結構続いてたり
ウチが最初から規模を大きめに計画してたからだと思うが
何処に行っても半笑いの対象。もしくは無視。


栽培を勉強したくて電話をして見学を申し込んでも断られる。
電話を切られる。電話口で怒鳴られる。
明らかなデタラメを教える人。
アポを取り訪問しても一切ハウスに入れてくれない人。
「この素人が作った花どうにかしろよ」と足で俺の花を移動する人w
話しかけるだけで舌打ちする人
会合で名指しで「あの人みたいなのはすぐに消えるから」で、全員で大爆笑みたいな。
こんなのはホンの一部。今となっては書けない事の方が多い。

(もちろん、中にはとても優しくしてくれた方もたくさんいた。
今でもお付き合いがある人は皆、こんな俺にも最初から親切にしてくれた。)

まあ、新規就農苦労あるあるの宝庫(笑)だった。

俺は覚悟はできていたし、持ち前のM気質で全然気にしてはいなかったけれど。

というか、当たり前だと思っていた。
何処の馬の骨かも分からない男が突然

「色々な花を作りたい」「花の作り方教えて下さい」

なんて来られても普通「はあ?」と誰もが思うはずだもの。

ただでさえ厳しくなってきた業界へ、わけの分からない新参者に入って欲しくないだろうし。
俺自身があまり社交的じゃなく、話し下手なのが原因かもしれないし。(酒が入らないと)

やっぱ過去のショボい苦労自慢や恨み節書いてるような性格なのが原因かも(笑)





そんな暗黒の立ち上げ時代。

俺は篠原さんを第一研修以来、再び訪ねた。

篠原さんは昔、俺が来たことを覚えてくれていた。

そしてトルコキキョウ、デルフィニュームの栽培方法を事細かく全部教えてくれた。
ホントに全部。

播種時期から植え付け時期、用土から肥料設計から農薬から注意点。
篠原さんがやっていること全てを俺に分かるように教えてくれた。

それだけではない。

週に1度くらいは必ず篠原さんの方から電話して来てくれるのだ。

「加藤くん。調子はどうだい?今うちの苗はこうだからきっと〜」と言う具合に。

そこまでしてもらえたのだから当然花はどんどん良くなって行った。

それから俺は篠原さんの農場へ何度も何度も通わせてもらうようになった。
俺が行くと篠原さんは半日は潰れてしまうのに。

そして俺の農場にも何度も来てくれた。一升瓶をかついで。

「篠原さん、俺が教えてもらってるんだから土産とか止めてくださいよ〜」

と言うと「いや〜俺も勉強に来たんだよ」と笑って指導してくれるのだ。



ある日、篠原さんの農場をまた見学させてもらおうと電話すると
篠原さんは何かの会合で忙しくて、その日は農場にいないという事だった。

そんな時も篠原さんは

「加藤君、俺がいなくても見て行っていいよ。
俺は多分電話でれないから勝手に入って見て行ってください」

と言うのだ。

生産者は皆、自分がいない時に農場を見られるのは嫌なものだ。
それなのに篠原さんはそう言ってくれるのだ。

俺は当日1人でゆっくり農場を見学させてもらい、栽培のアレコレを考えながら中央道を帰った。

すると途中で篠原さんから電話が入った。

「加藤くん、ハウス見れたか。あのね、あの品種はね〜」

電話に出れないくらい忙しい筈なのに篠原さんは俺に電話で説明を始めたのだ。


俺は電話を切った瞬間、どうにも言えない気持ちになってパーキングに車を止めた。
そして、号泣した(笑) 声をあげて。

付き合った彼女の大半に「何考えてるか分からない」「心が無い」と言われてきた俺だが
どうにもたまらなかった。嬉しくて。

篠原さんにとって俺に栽培を教えても敵が増えるだけで何も得にはならない。
それなのに俺みたいな者を、なんでそんなに気にかけてくれるんだろう、と。

くさい話かもしれないが人って凄いなと思った。素直に。
やさぐれていた俺もそれで少し変わった気がするw


何年かして冗談ぽく篠原さんに聞いてみた。

「何で俺に色々教えてくれるんですか?」と。

すると篠原さんは笑いながら言った。

「俺だって教えたくないよ。正直。
 
 でも加藤くんが通って来るんだもの、教えなきゃしょうがないじゃないですか(笑)
 
 いやあ〜良い花が作れればそれが一番いいじゃない。お互いに。」




ワークショップで3年ぶりぐらいにお会いできたのだが、いつものあの笑顔を見て
今の俺は人間的にも栽培的にも、まだまだ篠原さんのレベルには遠く及ばないなと
改めて思った。
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by kato-kichi5 | 2011-02-06 20:40